診療が終わって受付の椅子に疲れてどうっと腰かけながら、今日一日を振り返っていたら、先月退職したはずの穂奈美がいつのまにやら眼帯をつけてなにげにそばに立っていた。本心ではすごくうれしくって、頬ずりをしたかったけど、体面上、つっけんどんにどうしたの、て聞くと、やっぱり私ここで仕事してるほうが、自分らしく自然にふるまえたから今、結婚で博多に行くのもストレスになってるんです。と打ち明けてくれた。うれしいこといってくれるなあ。けどたぶん、新生活への期待と不安が入り混じって悩んでるんだろうなあと思いつつ、本当は行かないでほしいのに博多は住みやすいよとか、物価が安いよ、焼き鳥がうまいなどどうでもいい話で、彼女の本心には、立ち入らないようにその場をしのいでしまった。本当はずっとそばにいてほしいのに。なにげにまたいつでも帰っておいでと言ってみて笑い飛ばされた。ああ、おまえなら新天地で元気にやっていけるよ。けどたまには、こどもを連れてあそびにきてくれよ。奈良から応援しています。院長より